石山寺に雪が降る
重太郎が、先週買ったばかりの一眼レフ・デジタル・カメラを携えて電車に乗る。何年か、フルサイズのデジカメが欲しいと思い続けたが、まだ重太郎が買える程には安くない。ただ、中古のイチデジはコンデジ(コンパクト・デジタル・カメラ)と然程変わらないほどになっている。重太郎はそれを見ると堪らなくなって、すぐさま買ったのだった。今日は早速撮影に出掛ける。
天気予報通りの寒い朝。小さな二両連結の電車が終着駅に着くともう雪が降っていて、歩き始めた道の上に積もり始めている。まだ人影少ない道を、案内板に従って進む。練習のボートが行き交う瀬田川の側を足元に気をつけてゆっくり歩くが、程無く石山寺に行き着く。
山道を登り始めるところで金を払い、御目当ての本堂、多宝塔目指して先を急ぐ。寒くて気持ちにゆとりが無い。辺りは雪にけぶって色の無い景色である。傘にも雪が積もってゆく。
重太郎が見たところ、本堂は双堂のようだ。手前の礼堂は梁間二間桁行三間に裳階が付いていて、格天井が張られている。御本尊を安置する正堂は向こうに遠い。もう一度金を使って正堂へ行かせてもらう。そうは言っても御本尊は鞘堂の中。御開帳とはいかない。それでも周りに置かれた重文の弘法大師お手製の不動明王像や、毘沙門天といった立派な仏像が拝める。殊に毘沙門天は間近に見れるのだが、何やら堂堂としたものに感じる。平安初期とのこと。他にも平安期の金剛力士像心木などという珍奇なものがあって面白い。丁度胃か心臓のところが穿ってあって、舎利か何かが入れてあった様子。大変珍しいものと重太郎が見てとる。これも重文であった。
あまりに寒く、長居は出来ずに本堂を抜け出すと、もうすっかり雪が深くなっている。後は急ぎ多宝塔を探して、早々に帰ろうと考える。国宝の二棟を押さえて満足するつもりだ。
さて、石段を上がると、見事な多宝塔が座っている。案内を読むと「日本最古の多宝塔」と自慢気だ。改めて向き直ると、大らかでゆったりとした姿が美しい。重太郎は、根来寺で意識して以来、多宝塔に興味を持っている。普通の堂宇の技術だけでは難しいだろう二重目に現れる漆喰の円い御腹と、方形屋根の取り合いのバランスや、四手先の組物の重なりが、全体としてまとまるのが不思議でもあり、よく出来るものだと感心することろである。流石だと感じた。
御堂巡りもそこそこに、そそくさと麓へ降りると、食堂でブルーヒーターに当たりうどんを注文する。店の女が客とゆっくりと話している。これまたどこか大らかな感じがする。今日は客が少ないが、こんな雪景色になって喜んでいるという。犬みたいなものだ。でも最近の犬は喜ばないらしいね、などと暢気だ。体を温めるのもあるが、重太郎はおばさんの相手をして少しゆっくりした。石川県からの老夫婦と重太郎とで火を囲み、タクシーは駄目だよ、呼んでも来ないから。どこの会社にかけても誰も出ないし、携帯に直接掛けても駄目だと言われた、と雪の話を続けるおばさんに暫く付き合った。
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