蛍が飛ぶ
蛍が光っては消え、光っては消えしながら飛ぶ。それを桃恵と市蔵が二人して見る。暫くただぼうっと見ている。
市蔵の家から歩いて数分。新興住宅地を抜けてゆく川で、二十メートル程向こうには地域の幹線道路の橋が架かる所。川底はコンクリート、両岸はコンクリートブロックだが、砂が溜まって草叢が出来ている。草の中にぽつぽつと蛍が光り、ふぅっ、ふぅっ、ととぶものもある。ここは特に砂が溜まっているのか草が多く、街灯が離れて暗い場所だ。
地域に保存会が出来ているらしいが、ここで育った市蔵がこんな所に蛍がいることを知らなかった。親に聞かされて、初めて蛍狩りに来たのだ。
川下からやって来て、初めて光るのを見つけたのは嬉しかった。しかし、ぽつりとしたものだと風情はあるがまだ物足りない。もう少し先へ進み、幾つもの光が集まる所へ来て足が止まった。幻想的だ。音が消え、涼やかな光景に包まれる。
それほど多くはないが、ほんの2メートル先を蛍が飛ぶのには見とれてしまう。市蔵がぼうっとしたまま見ていると、桃恵がすぐ足元に一匹いることを教えてくれた。市蔵が暗闇で見難い虫の姿をしっかり捉えようと屈む。低木の葉の表裏を忙しく動く虫を捕らえきれずにいると、不意に目の前で飛び始め、鼻先に止まらんとした。市蔵が慌てて立ち上がる。桃恵がそれを見て静かに笑う。
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