今が田植えの時期
庭にはホタルブクロが咲く。去年は雑草だと思って苗をすっかり抜いてしまい、少少恨まれたが、何とか少しは残ってくれた。

今日は自転車で少し遠くまで出掛けた。雨上がりの昼下がり。丘を越えたら下り坂が続く。下っていくと田圃の脇へ出た。休耕田も多いが、田植えをしたばかりというところも多い。小学校の頃は、田起こしから稲刈りまで毎年見ていたのを思い出した。思い出しながら、水を張った田圃の間を、自転車ですうっと通った。すると気持ちもすうっとした。
詰まらぬ事も思いついたらさらさらと
庭にはホタルブクロが咲く。去年は雑草だと思って苗をすっかり抜いてしまい、少少恨まれたが、何とか少しは残ってくれた。

今日は自転車で少し遠くまで出掛けた。雨上がりの昼下がり。丘を越えたら下り坂が続く。下っていくと田圃の脇へ出た。休耕田も多いが、田植えをしたばかりというところも多い。小学校の頃は、田起こしから稲刈りまで毎年見ていたのを思い出した。思い出しながら、水を張った田圃の間を、自転車ですうっと通った。すると気持ちもすうっとした。
今や CAD は設計に欠かせない。だが CAD は設計を変えた。まず、ネットの普及と相俟って、図面の作成や納品が短時間で行われるようになった。そして、それによって報酬が目減りした。
CAD を断罪しようというのではない。大体、今更否定しても始まらないし、何よりも導入による効用が無視できない。CAD を使うと、複雑な図形を精確に計測できるし、図面管理がシステム化し易い。部分詳細を全体図の中に書き込むことが出来るし、部分の複写や貼り込みといった編集が簡単だ。
この編集作業が重要だ。CAD での作業は、形を作り出すというよりは、既存のものを編集する感覚が強い。常に種種の規格を意識して、構成の単純化と高い整合性を求めることとなる。また当然、汎用性も追及される。一回限りのモノにしてはもったいないから。短い時間、少ないコストで着実に成果を手にするという方策だ。最近の傾向をこう考えると、報酬が安くなる理屈が知れる。出来合いの、継ぎ接ぎに価値がないとなれば、その作業への対価は少なくなるだろう。
しかし極論すれば、創作は既存のモノの組み合わせで出来ている。適切なモノを選び巧く構成することは簡単ではないのだ。つまり、継ぎ接ぎにも巧拙がある。それに、何らかの考えがないとモノは作れない。そう思って継ぎ接ぎを見つめると、意味内容が読み取れるのではないか。そこには巧拙をも超える価値が見つかるだろう。設計の価値は、ある想念に導かれる意味内容ということになる。
CAD による作図だから、特段の意味もない、何と言うこともない編集処理の産物と思われたら駄目なんだ。
「浮世絵がこんなに迫力あるなんて知らなかった。」「もっとサラッて描いてあるんだと思ってた。なんかこう、勢いで一気に描くと思ってたの。ワァッて。でも全然違ってるね。凄いねぇ。」
市蔵が同意する。「そうだね。勢いで描いたんじゃなくて、狙ってるものを、計算してさぁ、きっちり作ってる。こう、、要素をおさえて、、整理してね。」「かなり薄墨を使ってるんだよなぁ。印刷したのでは分かんなかったけど、石部金吉なんかさぁ、顔のほとんどの線は薄墨で、眉と目と口だけはっきりと濃くしてる。」
「うん。意識して描き分けてるね。」
「完全に狙ってるよ。」
「うん。でも、もっとサラって描いてると思ってた。考えてたのと全然違う。凄い。」
写楽の絵を一通り見終ったが、「もう一度みていいかな。」そう言って市蔵は戻っていき、役者の大首絵を見比べ始める。桃恵が傍へ寄り添う。
「ねぇ。どれが好き?」
市蔵は一旦「初世尾上松助の松下造酒之進」を覗き込むが、「これは顔の影の薄墨が、なんか汚くなってるよなぁ。」と言い捨てて離れ、改めてひとつひとつを見比べる。そして少し考えながら「石部金吉」の前へ戻る。
「やっぱり、、これが一番狙った所へいってるんじゃないかな。」そう言いながらもまだ暫く眺めて迷っていたが、やがて納得した顔に変わる。「うん、要素を整理してて、すっきりしてる。やっぱりこれがいいよ。」
待ちかねた桃恵が「私はあれ。」とすぐに別の絵を指して市蔵を振り向かせた。小太りの男と小じわの目立つ男が顔を寄せあう、さっきから「これいいね。面白い。」と気に入っていた絵だ。二人を対照的に描いておかし味を感じさせ、見栄えのする構成になっている。
「でも、浮世絵って、思ってたのと全然違ってた。」桃恵がいたく感心している。
お互いのお気に入りを言い合って、二人は次の歌麿の部屋へと向かう。そして、色っぽさを的確にとらえる歌麿の腕前に魅了される。あどけない若さも、年増の崩れたところも余すところなく描かれている。順路も大分進み、ようやく列にも隙間が見え始め、余裕をもって見れるようになった。
「(物干し)」とキャプションに書かれた絵の前に来ると、市蔵がはっとした表情になった。
「そうか。なるほどね。透視図法のためにこれを選んだのか。」
「あ、ほんと。透視図法を使ってるね。」
「向こうに富士山とか家とかを描いてるよね。こういうの。でも物干しが架構だけになってて、その向こうに見える。これがやりたかったんだよ。ふぅーん。」
近景では物干しの柱や梁の格子が画面を区切る中で、多くの女がそれぞれのことをしている様子がいかにも歌麿らしく描かれているが、一方遠くでは、細細とした家並みが地表面をすっかり埋める。市蔵は興味津津で、ぐるっと絵を見回す。その市蔵の顔を桃恵が一瞥して微笑む。その絵は一段と華やかで、線が瑞瑞しく、色鮮やかだ。市蔵は暫く立ち止まった。
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